12月19日のゼミ日誌(第1期)

今回の日誌当番は山下さんです。

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今回はNever Let Me Go「キャシーはなぜ語っているのか」について、それぞれが発表しました。

様々な意見がありましたが中でも一番多かったのは、キャシーは語ることで自分たちの“存在証明”を残そうとしたのではないか、というものでした。それは、誰かのために死んでいく人間にはなりきれないクローンとしての短い人生にも意味はあって、キャシーたちにとってはそれが人生の全てであるということを、語ることで生きた証を残そうとしたのではないか、というものでした。生まれた時から自分の運命は決まっていて、どんなに幸せな幼少期を過ごしても、なりたい職業があっても、臓器提供という運命からは逃れられないけれど、クローンにも感受性があって他の人間と何も変わらないということをキャシーは訴えているのだと思いました。

私が印象的だったのは、野村さんの「記憶の存在によって他人と繋がっているからではないか」です。クローンには親も兄弟もいないので、同じクローンの仲間だけが思い出を共有することのできる存在です。なのに、ルースがへールシャムのことを忘れたふりをすることで、キャシーはいらだちと同時に自分だけがへールシャムの思い出を抱えている、もしくは、へールシャムにこだわっていることに寂しさを感じたのだと思います。記憶を共有することで、楽しさや幸せを感じることはキャシー達クローンにとって他人と繋がる手段の一つなのだと思います。
また、なぜルースやトミーが語っているのではなく、キャシーが語っているのかについても、感情的にならず自分達を客観的に見ることができ、事実を正確に話すことができるのはキャシーだから、という意見が出ました。キャシーが”語っていない”ところについても、冷静に語るための取捨選択なのか、ただ単にキャシーが語りたくなかっただけなのか、私はキャシーが語っていないルースとトミーがカップルになった経緯を語って欲しかったです。トミーを好きだったキャシーはルースとトミーが付き合うことになった時、とても傷つき、その時を思い出したくなかったのか、大人になって「カップルはあなたとトミーのはずだった」とルースは自分の過ちを認め、短い間とはいえ、トミーと二人の時間を過ごすことができ、もうそのことはいいやと思ったのか、理由は分かりませんが、キャシーにとってルースとトミーが付き合うことになったのは大きな出来事であったはずです。それを語っていないのは、わざと語っていないのだと思います。

 「キャシーはなぜ語っているのか」の発表で、様々な意見が聞けました。存在を証明するためや、幸せな思い出に浸りたかったなど。キャシーの語りは感情的にならず淡々としていて、でもそこがまた不気味です。また物語、事実を正確に話しているようで、一人称の語りなので、ルースは気分屋で感情的に書かれていますが、実際はそうではないかもしれません。キャシーはクローンの立場ですが、エミリ先生やマダムの立場の語りだとどんな語りになるのかなと思いました。クローンや倫理問題など改めて考えさせられる本だと思いました。

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私が予測していた以上に様々な、また、面白い意見が出て充実した時間でした。もっと時間を取れればよかった。これでは私の段取りミスです。ごめんなさい。みなさんとのゼミ活動も残すところあとわずかなので、だんだん寂しくなってきました。