松山大学大学院・英語圏文化文学研究会第3回研究大会

…が12月8日に行われます。詳しい情報は以下の通りです。この日、松山大学の学生さんの多くは1時頃までTOEICを受験すると思いますが、終わったら、軽くお昼ご飯を食べて、本館6階へどうぞ! 


松山大学の関係者でなくても、これをご覧になっている方で興味を持たれた方はぜひどうぞ! 大歓迎です。


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日時:2012年12月8日(土)13:30〜16:30
於:松山大学 本館6階会議室 


プログラム


13:30 開会の挨拶:久保進 松山大学大学院言語コミュニケーション研究科長


13:35 講演「『リア王』の四つ折本と二つ折本――シェイクスピアの本文編纂の現在」
     太田一昭氏(九州大学大学院言語文化研究院教授)


15:10 特別研究発表「『白鯨』と奴隷制:逃亡奴隷法とキューバ併合問題の影」
     辻祥子氏(松山大学人文学部准教授)


16:30 閉会


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第3回大会の趣旨
 英語圏文化文学研究会の過去3年間に渡る活動は散文に始まり、昨年度は第2回大会における阿部公彦氏(東京大学准教授)のご講演で、そして今年度は第4回研究会における児玉富美惠氏(松山大学広島大学非常勤講師)のご発表で、詩にも目を向けました。今回は、シェイクスピアを始めとしたエリザベス朝演劇の専門家である太田一昭氏をお招きして戯曲の世界へと視野を広げます。後半の辻祥子氏による研究発表では、19世紀のアメリカに視点を移し、当時の社会問題にも思いを馳せていただきます。


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講演:『リア王』の四つ折本と二つ折本――シェイクスピアの本文編纂の現在


講師・太田一昭氏の紹介
 博士(文学、九州大学)。現在、九州大学大学院言語文化研究院教授、日本英文学会理事、日本英文学会九州支部長、日本シェイクスピア協会委員(Shakespeare News編集担当)。著書は、『英国ルネサンス演劇統制史――検閲と庇護』(単著、九州大学出版会、2012年)、『新編シェイクスピア案内』(共著、日本シェイクスピア協会編、研究社、2007年)、『言葉の絆』(共編著、開拓社、2006年)、『シェイクスピアを読み直す』(共著、柴田稔彦編、研究社、2001年)など。


講演要旨
1986年、Stanley WellsとGary Taylorの共編William Shakespeare: The Complete Works (Oxford UP)が刊行された。これは、それまでのシェイクスピアの本文編纂の常識を打ち破る全集であった。その革新性は、特に『リア王』の編纂に際立っている。『リア王』には2種類の「権威ある」古版本が現存する。The History of King Lear(四つ折本、1608年初版)とThe Tragedy of King Lear(二つ折本、1623年初版)である。従来の『リア王』の標準的なテクストは、四つ折本と二つ折本のテクストの折衷合成版であった。オクスフォード版の編者たちは、それまでの折衷合成を拒否し、両テクストを別々に全集に収載したのである。別言すれば、2種類の『リア王』を掲載するシェイクスピア全集が刊行されたのである。編者たちによれば、シェイクスピアは自作を改訂することを常とする劇作家であって、両テクストは別個の構想によって執筆された異なる戯曲である。オクスフォード版編者たちの編纂方法に妥当性はあるのか――この問題を、『リア王』の2つのテクストの再検証を通して考えてみたい。


特別研究発表:『白鯨』と奴隷制:逃亡奴隷法とキューバ併合問題の影
辻祥子氏


19世紀を代表するアメリカ人作家ハーマン・メルヴィルが大作『白鯨』(1851)を手掛けた当時、アメリカ合衆国奴隷制をめぐって大きく揺れ動いていた。国内では1850年に強化された逃亡奴隷法によって、北部に逃げた奴隷を捕えようとする奴隷ハンターと、奴隷をかくまい、「地下鉄道」と呼ばれる闇のルートを通して逃がそうとする奴隷解放運動家たちの間の攻防は激しさを増していた。一方外交問題では、1848年のテキサス併合に続いてキューバ併合が議論されていた。もしアメリカがスペインからキューバを奪取できた場合、テキサス同様、キューバも奴隷州として南部側に組み入れられる可能性が高く、南部の有力者たちはそれを望んでいた。この発表では、『白鯨』がこういった奴隷制をめぐる国内外の動きとそれにともなう人々の不安をいかに巧みに写し取っていたかを紹介する。


また、『白鯨』は現代になってアメリカ・ルネッサンス期の代表作と位置づけられ、所謂大衆文学と一線を画す扱いを受けているが、同時期に出版された逃亡奴隷の手記、奴隷解放運動家の詩、キューバ併合の問題を題材にしたセンセーショナル・ノベルとの間に興味深い類似点を持つ。つまり、先に挙げた政治的テーマのもとで、『白鯨』と他の同時代作品がジャンルを超えて響き合っているといえるのである。
時間が許せば、かつて逃亡奴隷を救った地下鉄道の歴史が、200年の時を経て現代のアメリカ人にどのように掘り起こされ、保存され、語られているかについて報告したい。在外研究期間中、オハイオ州シンシナティにある国立地下鉄道博物館や各地の地下鉄道跡(奴隷の隠れ場所を保存している教会など)を訪ねた。自由を求めて危険に満ちた荒野を進んだ西部開拓の旅をアメリカ人はいまだに好んで語るが、ちょうど同じ時期、自由を求めてハンターたちの追跡に怯えながら闇の中を進んだ逃亡奴隷の旅もアメリカ人をひきつけてやまない。このモチーフが、アフリカ系アメリカ人の文学の中で現代にいたるまで連綿と受け継がれていることに関しても最後に触れたいと思う。


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