11月14日のゼミ日誌(第1期)

今回の日誌当番は藤澤さんです。

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今回のゼミは、Never Let Me Goの第19章から第20章までを取り上げました。

19章は、キャシー、ルース、トミーの三人が座礁した船を見に行き、その行き帰りで起きた出来事が描かれています。そして帰りの車内で、ルースが今までの自分の行動を謝罪し、キャシーとトミーにマダムのところへ行くように頼むことで、これからの二人の関係が大きく変化しました。
この章で印象的だったのは、船を見るために三人が有刺鉄線をくぐり抜ける場面です。キャシーとトミーはすんなり通ることができますが、ルースだけは越えることができません。これは、ルースにとって有刺鉄線が、ヘールシャムと外界を隔てるフェンスと結びついており、隔ててある場所から出てはいけないという観念が彼女の中で無意識に構築されていたのだと思います。このことから、ヘールシャム時代の記憶が強烈に残っていたのは、キャシーよりルースだったのかもしれません。
また、使命を終えたクリシーと恋人ロドニーについて、キャシーとルースが議論する場面も印象的でした。中でも、’How could you possibly know? You’re still a carer.’(p222)というルースの言葉は、身体的、精神的な痛みをまだ知らないキャシーへの怒りを感じました。加えてルースは、自分が死んだ後のトミーの反応がキャシーのいうロドニーではと考え、強く否定しているのだと思いました。

20章では、キャシーとトミーの穏やかな日々が描かれていますが、提供の通知という影が常につきまとっています。それを一時的にでも消そうと、二人は提供の猶予を求める準備を始めます。しかし、キャシーは以前の若々しさがなくなったトミーの絵を見て、不安を覚えました。この時、もう何をしても手遅れではという気持ちがキャシーの中に生まれます。それでも二人が猶予を求めようとするのは、亡くなったルースのためであり、彼女の希望を無駄にしてはいけないという強い思いが彼らの心の中にあったからだと思います。

<感想>
今回の授業で、私が印象的だったのはルースの言動でした。特に、クリシーとロドニーのことで彼女がキャシーに反論する際の’Why would he know?’(略)’It wasn’t him on that table, trying to cling onto life.’(p222)という言葉は、体がズタズタになっても生きたいという彼女自身の生に対する生々しい執着が垣間見えました。この時のルースは、エゴ丸出しだった頃の彼女に戻っていたように思います。
ヘールシャムやコテージでのルースはエゴの部分が強調されていたので、あまり好感を持つことができませんでした。しかし、提供者になり弱い立場になったルース、死を受け入れながらも完全に生への執着を捨て切れていないルースを知ると、彼女が誰よりも人間くさい人物に思えました。そして、再度読み直すと以前よりも彼女の気持ちや行動の意味が理解しやすくなりました。

=====ここまで=====

読み返せば読み返すほどルースの言動が気になりますね。どうして彼女はあのような言動をしてしまうのか…。ヘールシャムという閉じられた空間から外に出て、自分がクローンであることに直面せざるを得なくなって、かえって人間的な面を露呈してしまうルース。人間とは何なのかを考えさせられますね。