1月22日のゼミ日誌(第2期)

今回の日誌当番は加藤さんです。

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今日は『デイヴィット・コパフィールド』が書かれたイギリスと、その植民地であったオーストラリアの関係についての発表が3つありました。

3つの発表に共通して言われていたことは、作品の設定年代(1849−1850)当時の時代背景と、作品におけるオーストラリア移民についてです。

発表によると、1788年にイギリスは国内の罪人の流刑先として、オーストラリアを植民地にしました。またゴールドラッシュと、イギリスによるオーストラリアの明るいイメージ作り(ヘンリー・ジョージ・グレイ卿による演説)の影響で、1830年代以降移民が急増しました。そして作品の設定年代の頃には、オーストラリアへの関心が高まり、政治的、社会的にオーストラリア移民の最盛期を迎えました。

作品におけるオーストラリア移民には、ミコーバー一家、ミスター・ペゴティー、エミリー、マーサ、そしてメル先生が挙げられました。


■各発表について

1.浪本さん「『デイヴィット・コパフィールド』とオーストラリア」
イギリスとオーストラリアの関係を詳しく説明し、ディケンズと植民地、さらに売春婦問題との関わりを述べられていました。
ミコーバー一家を植民地へ行かせた目的は、新しい地で成功させることだけでなく、遠くへ行かせることも含まれていると述べられていました。これはディケンズの父ジョンへの思いの影響で、作家として伸び始めた頃金銭を求めてきた父を、ロンドンから遠くへ行かせた経験があると紹介されました。
そして作品にも登場する売春婦問題(エミリーとマーサ)への、ディケンズの取り組み(ユーレイニア・コテージ)が紹介されました。売春婦であるが友人思いの二人を描くことで、世間に彼女らへのイメージを改めさす意味があるのではとされていました。

2.石浜さん「『デイヴィット・コパフィールド』におけるオーストラリアの移民」
移民の実態を詳しく説明し、ディケンズ自身とデイヴィットの移民への思いが述べられていました。
石浜さんの発表では、ミコーバー一家の移民は「貧乏な親戚の排除」であり、事実上国外追放であるとされていました。さらに、エミリーとバーサの移民に関しては、「堕ちた女の救済」であるとされていて、面白かったです。
目的だけでなく、階級によっても移民は分類され、移民船の空間が分けられていたと紹介されていました。日常生活だけでなく、移民にも根強く階級意識があったのだと感じました。

3.長坂さん「『デイヴィット・コパフィールド』とオーストラリア」
作品における移民を挙げ、さらに作品に書かれていない移民の実態を述べられていました。
長坂さんは、作品には移住の明るい面しか描かれていないことを指摘し、例にマーサの結婚を挙げました。その指摘から、その後の生活は描かれておらず、マイスな面を排除していることに気づけました。石浜さんの発表にもあったように、実際「堕ちた女」は移民船で、再び売春婦へ戻ってしまうこともあったようです。
ディケンズはミスター・ミコーバーの成功などプラスなことだけを書く事で、オーストラリア移民の明るいイメージを保っているのではと感じました。

感想
3つの発表を聞いて、ディケンズはイギリス目線で作品を書いたことがわかりました。より実態について知るためには、オーストラリア目線でも植民地について考えるべきだと強く思いました。授業で紹介された、ピーター・ケリーの『ジャック・マッグズ』(1997)、さらに合わせて『大いなる遺産』(1860)を読んでみたいと思いました。

===ここまで===

オーストラリアに興味を持った人が3人もいて驚きました。加藤さんも書いているように、『大いなる遺産』や『ジャック・マッグズ』、オーストラリアでなくても植民地と関係のある小説を他にも読んでみてください。