5月22日のゼミ日誌(第2期)

今回の日誌当番は藤本さんです。

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いよいよ第2部に突入しました。今回の授業の担当は第10章が藤本、第11章が森下さんです。

第10章からはコテージでの新生活を軸に物語が展開していきます。ポイントとして注目されるのはヘールシャムとコテージでの生活の違いと「ダニエル・デロンダ」の一件からのキャシーとルースの仲たがいです。

コテージのカップル間では節度のある大人の行動がなされていました。The veteran couples never did anything showy in public, going about in a sensible sort of way, like a mother and father might do in a normal family.とあるように「一般家庭の父と母」に例えられています。もしかしたらヘールシャムの授業で教えられたのかもしれませんし、ドラマの恋人の行動をマネする慣習が流行っていたなど、テレビで情報を得たとも考えられますが、親のいないキャシーたちにとって一般家庭の父母の関係はどのように映っていたのでしょうか。

コテージには保護官がおらず、比較的自由な生活ができます。いろいろな経験ができるとともに自分について考えることのできる時間でもあります。後に猶予期間の噂が広まりキャシーとトミーがマダムのもとを訪れることになりますが、まさにこのコテージ生活はクローンたちにとっての猶予期間だったのではないでしょうか。

「ダニエル・デロンダ」の一件からはキャシーの焦りや孤独感が読み取れます。

またここであげられる一番の疑問点「逃げられる環境なのに、どうして自分の運命に抗おうとしないのか。」

ここではキーワードとして「コミュニティ」があげられました。被災地の問題など、現代社会にも普通に存在する非常に深い問題だと思うので、さらに掘り下げて考えてみたいと思いました。

第11章はキャシーとルースの奇妙な関係が描かれています。またポルノ雑誌を怖がった表情で淡々とめくるキャシーをトミーが見てしまいます。

昼間どんなに険悪なムードになっても、夜になるとベッドに並んで本音を話し合う。

There was one Ruth who was always trying to impress the veterans, who wouldn’t hesitate to ignore me, Tommy, any of the others, if she thought we’d cramp her style.

キャシーはこんなルースをみて、ルースの中に二人の人間がいると表現しています。

ここではルースという人物について皆で意見を出し合いました。
ルースは立場的にお姉さんを意識して振る舞っている点がある、それゆえに知ったかぶり、見栄を張るところがある。ぶれないキャシーに対するコンプレックスがある、トミーには甘えられないからキャシーにぶつけている、コピーとしての在り方や自分自身について悩んでいるなど。

物語を読んでいく上で、どうしてもキャシー目線になりがちですが、ルースはルースでいろいろ抱え込んでいるものがあり、非常に複雑な気持ちを抱いていることは間違いありません。話し合いでも出たようにルース目線のNLMGもとても面白いと思います。

感想

今回から第2部に入ったということで、キャシーたちを取り巻く環境が大きく変化しました。

キャシーとルースの関係、たしかに奇妙かもしれませんが、なんだかわかる気もします。本音で語り合える仲だからこそ意識してしまう、きついことも言えてしまう。結局お互いがお互いに依存しているような…。二人のシーンが出てくる度に、イシグロは女性同士の人間関係や精神描写がうまいなぁと思います。

またケファーズさんという存在についても少し注目しましたが、彼がポルノ雑誌を毛嫌いしている理由として、「クローンが性に興味をもっている」ことについて恐れを感じているのではないか、という先生の意見を聞き、自分と違う存在に対する恐怖について考えさせられました。きっと人間だけでなく、クローンたちも同じように人間に対して恐怖を持っていただろうな。

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コテージに来て、ヘイルシャムのときよりも一般の生活に近づいたことでかえってキャシーたちの特異性が明確になり、彼女たちも自分たちの存在について考えさせられているような印象ですね。ルースの語りによるNever Let Me Goはどんな物語になるのか、私も大いに興味があります。