7月3日のゼミ日誌(第2期)

今回の日誌当番は石浜さんです。

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今期2回目の発表、今回は「自己認識」という共通のテーマを持った大井さん、森下さん、藤本さんの3名の発表でした。

まず大井さんの【クローンと自己認識】は、クローンという存在、彼らが持つ自己認識能力についての発表でした。臓器提供を目的とし、人間のコピーとして生まれたクローンが「自分たちは何者なのか」をどうやって認識していくかが考察される中、ルースの「私たちがクローンと知っていたらあの人たちは話しかけてくれたかしら。」という台詞が表すように、クローンと人間は外見も内面も変わらない存在であることが分かりました。ならば、どのように自己を認識するか。周囲の人間の意識が2つを分ける境界線で、他者の意識を認識し自己を確立していきます。人間にとってクローンはふつうでない異端分子として恐れられ、逆にクローンにとっても人間は自らの異端性を認識させる脅威として双方を見ている点は、似た者同士なのにもっと歩み寄ることはできないのかと個人的に少し切なく思いました。そして、「なぜキャシーは語るのか」ということについての見解もとても興味深かったです。

次に森下さんの【『わたしを離さないで』における「オリジナル」と「コピー」】では、作品内でオリジナルとコピーがどのような描かれ方をしているのかということに焦点を置いて発表が進められました。『わたしを離さないで』では人間とクローンが対置、差異化されており、人間側が有利に描かれています。ここでもルースの台詞が挙げられ、クローンと人間が見た目は一緒で、言わなければわからないほどその違いはほとんどないことを改めて感じました。このことからもお互い本来は対等に扱われるべきだという意見には私もその通りだと思いました。また、キャシーも彼女が大切にしていたカセットテープもコピーでありながらいろんな思い出が入っている「オリジナル」であり、コピーはオリジナルという意味を内包しているという解釈にはとても考えさせられました。

最後に藤本さんの【社会心理学からみるNever Let Me Go〜コミュニティ論と自己認識〜】では、コミュニティ感覚やアイデンティティといった社会心理学的観点からクローンの自己認識が分析されていました。4種類のコミュニティ感覚を定義し物語内の出来事や関係性を当てはめており、それぞれの出来事がこういった心理から起こっているのだと知れたことは面白かったです。特に4つ目の「自分はより大きな依存可能な安定した構造の一部であるという感覚」で、キャシーが最終的にクローンとしてからヘールシャム出身者として重点を変えて自分の人生を納得している点は、私も気付かなかったのでなるほどと思いました。また、キャシー、トミー、ルースの3人がそれぞれ自己決定をしっかりし、自分らしく生きられて幸せを感じているという考察について、最初はそう思わなかったけど発表を聞いて納得できました。しかしその裏付けには「死は誇り高いもの」として教育されていることがあると思うと、とても複雑な気持ちになりました。

今回の発表では、クローンも人間も自己認識という点ではそれほど変わりはなく、キャシーたちがいかに人間らしく生きているかという矛盾のようなものが改めて感じられました。個人的にはこの問題は深く掘り下げるほどクローンと人間の境界線が分からなくなってくるような気がしました。先生が紹介されていたBrave New Worldや『真夜中の子供たち』を読むとクローンや遺伝子に対する意見がまた変わってきそうです。

===ここまで===

『真夜中の子供たち』はクローンを扱っていないのですが、別の授業で八塚くんが発表したばかりだったということもあり、生物学的な親とのつながりとはいったい何なのかを考えるきっかけとして言及したまででした。本当にいろいろと考えさせられますね。