6月26日のゼミ日誌(第2期)

今回の日誌当番は八塚くんです。

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第11回目となる6月26日の授業では、Never Let Me Go についての1回目の発表がありました。今回の発表者は石浜さん、加藤さん、菅野さん、羽藤さんの四人でした。発表テーマはそれぞれでしたが、内容の切り口も人それぞれで、カズオ・イシグロのインタビューから、アイデンティティに関する社会学から、映画と水を題材にした神話からなど、それぞれの個性が光る発表でした。

石浜さんの発表は「カズオ・イシグロはどうしてNever Let Me Goを書いたのか」でした。NLMGの初期構想は核に遭遇する若者たちであったことや子供時代への哀愁、エデン的記憶へのイシグロのこだわりなどが紹介されました。改めて考えるとキャシーの語りはルースやトミーとヘールシャム時代を振り返ったという近日談のようなものもあり、エデン的記憶、子供時代への執着というのは作中にもよく表れている部分だと思いました。発表のトップバッターとして様々な情報が提供された感じで、石浜さんの発表をもとにインタビュー集なども読んでみたいと思いました。

加藤さんの発表は「Never Let Me Goに込められた意図とは」というもので、キャシーの宝物であるテープや作中の水の流れによって引き離される別離のイメージなどからNever Let Me Goというタイトルや歌について考察するものでした。川や海など、作中に水に関するモチーフがいたるところに使われていることに改めて気づかされました。しかし、それ以上に水に関する神話やほかの作品での水のイメージなどについての説明で、イシグロがそうした水の効果を狙って作中で登場させていると考えると、説得力のある独創的な視点で、聞いていて非常に面白い発表でした。

菅野さんの発表はNLMGにおける「運命」をテーマにしたものでした。十分に内容が煮詰まっていないということでしたが、面白いテーマだと思いました。クローンでありながら心を持ち、個性を身につける教育が施されるヘールシャムだからこそ、このテーマに大きな意味があると思います。個人的には、「色を付ける」という表現がクリシーとロドニーのバースデーカードの話と重なりました。大量に買ったカードの中から同じものにイラストを付けて個性を出すというのは、大量に作られたクローンたちに情緒的教育を施して魂を宿らせようとするヘールシャムの運動そのもののようだと、発表を聞きながら思いました。

最後は羽藤さんの「Never Let Me Goにおけるアイデンティティとは」という発表でした。IDカードの話から始まり、アイデンティティの定義や能力、関係、所属による証明の話などがありました。持ち物による存在証明というのは羽藤さんが独自に考えた存在証明だと言っていましたが、こうした独自の意見があるのは見習いたいと思いました。発表を聞いて、学生証や健康保険証など自分の身の回りには自分を証明するものがたくさんあるように思います。ただ、発表を受けての矢次先生のお話にもありましたが、NLMGの世界ではむしろ明確には見えない形での存在証明が重要であると思います。

題材も論じ方もそれぞれで、四人それぞれの色がある発表で、どれも面白い、刺激になるような発表でした。

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「こう来ますか〜」と私としても意外な発表があり、で楽しく発表を聞かせていただきました。卒業研究でNLMGを取り上げる人もいますし、今後、この作品を読み返すたびに、みなさんの発表やそれに対するコメントを思い出すことになりそうです。