11月27日のゼミ日誌(第2期)

今回の日誌当番は矢野さんです。

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今日のゼミもNLMG発表②の続きで、今回の担当は羽藤さん、森下さん、長坂さん、浪本さんでした。

羽藤さんのテーマは「Never Let Me Goと存在証明」
前期の発表からの発展ということで、今回は①誰がどの存在証明に依存したか②自己向けと他者向けの存在証明③恋愛関係による存在証明という三つの観点が挙げられていました。②の観点において、ルースは保護官に特別扱いされているふりをする等他者向けの存在証明の傾向が読みとれるのに対し、キャシーは自己向けの存在証明の傾向が読み取れ、ヘールシャムという所属を拠り所とし、自分の記憶を持つことによって価値を支えていると発表されていました。そこから、ディケンズ作の『デイヴィッド・コパフィールド』の引用を用いて、キャシーが自分の人生の主人公となれたのかという考察に繋げていたのがとても興味深かったです。やはりキャシーのように沢山の決断を経験したり、ふとした時に自分のこれまでを振り返ってみたりなど、自分の人生の記憶に関心を持つことで、記憶に価値が深まって、人生の主人公になれるのかなと考えさせられました。

森下さんのテーマは「人生とは―自己を見つめて」
人間の人生について経験、自己、愛、運命、死という項目に分けて発表されていました。
特に、愛については、かけがえのない存在そのものの絶対的肯定が愛の本質をなすという「愛の記憶」が重要になり、愛を知るきっかけは母親からの愛情をもって知るのだと発表されていました。Never Let Me Goにおいてキャシー達ヘールシャムの生徒には母親がいないが、彼らにとっては保護官が母親的存在であり、そこから愛を知り、恋愛感情を抱くことが出来ているという森下さんの考えは私もそうだと思いました。発表テーマをみたときから深い内容だろうなぁと思っていたけど、この発表を聞いて、改めて、人生は様々なことが寄り合わさって成り立っていくものであり、結局は沢山の経験を積んで自己をしっかり高め、人生の内容を充実させ、価値を高めていくことが大切なのだと気付き勉強になりました。

長坂さんのテーマは「文学における『自己探求』のテーマ、もうひとりの私」
もうひとりの私という存在で用いられるものとして分身やクローン、ドッペルゲンガーを挙げ、コピー機が開発された歴史が人間に「複製」という考えを持たせることになったと発表されていました。発表を聞いていて、昔、自分がもう一人いたら、嫌な事を代わってもらえるなどプラスな考えを持ったことがあったなぁを思い出しましたが、自分の人生を乗っ取られるというマイナス影響もありうるのだと知り、やはり人生は自分でまっとうに生きるべきなのだと思わされました。また、ルースの「将来の夢」が本格化する要因となった広告についての語りはキャシーの意思と置き換えられ、キャシーもルース同様、自分ではない生き方に憧れを感じていたのではないかという考えは、新たな発見でした。読んでいるときはキャシーと同じ目線で読んでいたため、キャシーの語りを離れて解釈してみるという発想がなかったからだと思い、“信用できない語り手”の効果かなと感じました。

浪本さんのテーマは「Never Let Me Goに描かれている、人間とクローン人間」
クローン人間としてヘールシャムの生徒、クリシ―、コテージの先輩たち、スージーを挙げ、人間としてエミリ先生、ルーシー先生、ケファーズさん、マダムを挙げ、双方の言動を分析していてとても興味深かったです。特に、ケファーズさんについては、読んでいて登場してもあまり深く気に留めていなかったので、ルースから宝物箱の処理依頼をされたときに、一度は遠回しに断ったり、本意かは分からないがルースの意見に賛同してあげたりというやりとりの部分を改めて知り、優しい一面があったことが驚きでした。また、エミリ先生が生徒たちを学校運営を成功させるための道具として扱っていて、偽善的に感じるという意見には私も納得でき、エミリ先生の発言にはあくまであなた達のためを思ってやってきたのだという思いが表れていたけれど、思いやりで片づけられる嘘ではなかったのだろうなと思いました。

これまでの発表も含め、嘘をつくということであったり、存在証明であったり、人生についてであったりと、Never Let Me Goから発展して様々な観点からの発表があり、勉強になる部分が多くありました。来週の土居さん・内藤さんの発表も楽しみです。

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自分とは何なのか、生きる意味とは何なのか、いろいろと考えさせられましたね。そうやって考えていると、クローンなのかどうかということはどうでもよくなってくるのかもしれません。前回の菅野さんの発表でも「嘘」が取り上げられていましたが、それも一つの人間らしさなのかも。悪意のある嘘はもちろんいけないわけですが。