7月9日・16日の卒業研究発表会②(第3期)

小西さんの発表「『大いなる遺産』――ピップは紳士になったのか」について(檜垣)
紳士についての定義から始めて、ピップの変化と共に、彼が最終的にジェントルマンになることができたのかについて発表してもらいました。

私は紳士という意味を内側の誠実さなどから連想していたので、階級、内面としての意味合いや変遷が詳しく述べられていて、理解しやすかったです。お金を持って、見栄を張る人たちも紳士の仲間入りをした時代もあると聞き、『ピグマリオン』を思い出しました。日本では内面の紳士さの方が浸透しているとあり、階級社会が強く根付いているかどうかの違いの様にも感じました。

第3章では主人公ピップが回りの人々と関わり合う中で、彼の立場と心の変化について述べられていました。階級的には下でも、真のジェントルマンとしての心を持つジョーと、階級を追い求めて心が育っていなかったピップとの対比が印象に残りました。

「ジェントルマン」という言葉の捉え方で、様々な考察をすることができました。作品には著者ディケンズの経験も込められたりしており、彼の他の作品や、時代背景をもっと深く知りたいと思えました。

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信清さんの研究「『大いなる遺産』―主人公に見られる人間的成長の過程」について(小西)

労働者階級からいきなりジェントルマンの教育を受け、そうした身分の差の変動から様々なことを学び、大金持ちになることで得たもの、失ったもの、見えてきた本当に大切なものを学ぶピップの人間的成長の過程を考察。第一章ではジェントルマンの意義についての叙述。ジェントルマンという呼称は、元来は土地から収入を得た収益などで暮らし仕事をしない階級のことだった。だが教育を受けて内面を磨けばジェントルマンになることも可能だった。

第二章では登場人物がピップに与えた影響についての考察。『大いなる遺産』の中ではポケット氏が「世界が始まって以来、ジェントルマンの心を持たない者が、ジェントルマンの振る舞いをすることはできない」と話す。姉のミセス・ジョー、初恋相手のエステラ、ビディ、囚人マグウィッチ、親友でもあるジョー・ガージャリーの五人。姉は世間体を気にしているが、その気まぐれで乱暴な無理強いはピップは不公平だと思ってきた。姉に育てられたせいで「精神的臆病で、非常に神経過敏」な子供になったことが分かる。エステラはピップを下品な労働者の子などと馬鹿にしてしまう。その言葉と彼女との出会いによりピップは労働者階級である自分を恥じるようになってしまう。ビディはピップにとても信頼されていた。だがピップはジェントルマンになることでビディのことを嫌ってしまう。それでもビディは最後まで彼に優しさを与え続ける。マグウィッチはピップをジェントルマンに仕立てあげるために必死になっていた。そんな彼をピップは初め毛嫌いするが、長い間自分を思い続けてくれた彼への見方も変わっていく。親友のジョーはいつでもピップの味方だった。ジェントルマンになったピップがどんな態度を取っても、最後に病気がちになったピップの元へ飛んできたのはジョーで、そんな彼にピップは今までの彼に対する態度を悔いる。

結論では、夢ばかり追い求めていたピップだがそれを反省後悔し、また周りからの忠告を受け入れずにマグウィッチのそばを片時も離れずにいたピップの姿は、彼の人間的成長の一つの到達点といえる、と締められた。信清さんと私は卒業研究の元となる作品が同じでしたが、私はピップ個人を対象としているのに対し、信清さんは『大いなる遺産』の登場人物それぞれをピックアップして、そこからピップの態度、様子についての考察は注目する点がたくさんありました。姉のミセス・ジョー、エステラ、ビディ、マグウィッチ、ジョー、いずれの人物もピップと深く関係のある人物で、それぞれからの影響は確実にピップの内面を構成するものだと思います。特にビディとマグウィッチは外せないものだと思います。場面を回想して詳しく考察することでより深くピップと彼ら
の関係性が見えました。そしてそれによりピップの成長過程も見えやすくなっていました。

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宇都宮さんの発表「英国スポーツ――歴史、階級、女性」について(信清)

宇都宮さんの卒業研究は『英国スポーツ〜歴史、階級、女性〜』というテーマでした。スポーツがどのように誕生し形成されていったのかを4つのスポーツを例に挙げると共に、当時の女性や階級とスポーツとの関連性について発表してくれました。第1章では『スポーツ』の語源について、第2章ではスポーツの誕生について論じていました。クロッケー、テニス、サッカー、ラグビーの4つのスポーツを例に挙げて発表をしてくれましたが、中でもサッカー(フットボール)はイングランドが発祥の地と言われているそうです。第3章では、スポーツから見えるものとして、『スポーツと女性の関係性』、『スポーツと階級』について述べていました。

スポーツをすること、活発な身体運動を自由に行うことは、単に女性達の健康を向上させただけでなく、スポーツを通じて同性や異性と一緒により自由に社会化することができるようにしたもので、ブルジョア女性の社会的地平を拡大したそうです。

イギリスは階級なしでは語れませんが、スポーツの中でも階級意識がありました。「ブルー・カラー」と「ホワイト・カラー」は2つの階級を象徴する色とされており、前者は工場労働者を意味し、後者はジェントルマンを意味する色になっているそうです。

結論では、スポーツは単なる娯楽として形成されたのではなく、教育や人間形成なとが関係して登場したものであるということ、そしてスポーツに関しての階級差や男女差をなくそうという対策が行われていることからも、スポーツがいかに国民に重要視される対象であったかを知ることができたとまとめていました。

宇都宮さんの卒業研究はみんなと少し違って、『スポーツ』という点に着目していたことからも個人的にとても興味のある内容でした。私達が普段、何気にしているスポーツですが、『スポーツ』という慣れ親しんだ言葉になるまでには様々な形があったことを知れました。

また、スポーツと階級では、テニスをする際優しい紳士であるならば最初のサーブでは相手が打ちやすいように打たなければならなかったと聞き、それにも衝撃を受けました。

今ではたくさんの人に好まれ、親しまれているサッカーも、かつては見物人を巻き込み死者も出るほど乱暴な娯楽であったそうで、今となっては想像できないなと思いました。

スポーツの歴史については今まで深く考えたことがなかったので、今回の卒業研究でたくさんのことを知ることができてよかったと思います。