7月9日・16日の卒業研究発表会③(第3期)

上岡さんの発表「『ピグマリオン』におけるバーナード・ショーの価値観」について(本山)

私は上岡さんの卒業研究の中で印象に残った言葉が1つあります。それは“労働者階級=下層階級ではないということである”という言葉です。今まで詠んだ作品の中でも労働者階級の人たちはどうしても下に描かれていたりする描写が多く、意識はせずとも労働者階級を下層階級であると結び付けてしまう部分がありました。

しかし“下層階級の人はほかの階級を羨むことなく、自分の階級に誇りを持っていることが多く、別世界の人間としてたんたんと生きていることが大きな特徴と言われている”という言葉を見て、妙に納得してしまった自分がいました。

何故納得したかというと『ピグマリオン』の中に登場するイライザの父親、アルフレッド・ドゥーリトルの生き方がまさにそのものだからだと感じたからです。アルフレッド・ドゥーリトルは最終的には中産階級の人間となってしまいましたが、下層階級である間は自分の階級から上に上がることなど全く考えず、自分自身の人生を謳歌しているように見えます。これこそ上岡さんお卒業研究の中で述べられている、下層階級の人々の生き方そのものだと思いました。

また、イギリスの階級は言語のなまりなどでわかると言われていますが、コックニーの「エイ」を「アイ」と発音するところや、「H」の音を発音しないのはフランス語に近しいものがあるのではないかと感じました。
ピグマリオン』は授業内で扱った作品だったので、発表を聞いている間も自分なりに考える部分が多く、とても面白い発表でした。

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山本さんの発表「『ジェイン・エア』――影のヒロイン」について(上岡)
シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』における影のヒロインであるバーサ・メイスンについて詳しく研究し、当時の社会背景やジーン・リースが『サルガッソーの広い海』に込めた思いについて考察されていました。

第1章では、『ジェイン・エア』と『サルガッソーの広い海』でのバーサを比較されていました。『ジェイン・エア』でのバーサの外見は、「変色した恐ろしい顔」、「赤く充血した目」などと表現されていて、怖く、不気味である描写から悪のような印象をうけます。一方で、『サルガッソーの広い海』では、白いゴキブリと呼ばれ、自分が何者でどうして生まれてきたのか分からなくなる様子や、ロチェスター氏との幸せな時間が消えるのを不安に思っている様子が描かれています。このことから、バーサは繊細な心を持った人間で、悲劇のヒロインであるということがわかりました。

第2章では、バーサを悲劇に追い込んだ当時の社会背景について取り上げてくれました。1833年、イギリスで奴隷制廃止法が制定され、どれまでの奴隷は労働者になり、元奴隷から元奴隷主として恨まれるようになりました。また、当時のイギリスの婚姻法では婚姻期間中は妻に財産の所有権はなく、精神異常者の妻とは離婚できませんでした。このようなイギリスの社会が、バーサが悲劇に追い込まれた原因だということに納得しました。

第3章では、ロチェスター氏とバーサの人生について取り上げてくれました。

第4章では、ジーン・リースの思いについてまとめられました。ジーン・リースはイギリスの植民地であるドミニカに生まれ、クレオールでした。クレオールとは、西インド諸島に移住した白人の子孫を指す言葉で、差別されていました。ジーン・リースが自分と同じ立場であるバーサに自分を重ね、『サルガッソーの広い海』を描いたことを知り、奥の深い作品だな、と感じました。バーサの立場から描かれている作品ということで、とても興味を持ちました。ぜひ読んでみたいと思います。

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阿部さんの発表「ヴィクトリア朝の女性作家――シャーロット・ブロンテの場合」について(山本)

ジェイン・エア』は何度も読み、私も卒業研究のテーマにしているのですが、シャーロット・ブロンテについてはあまり調べたことがなかったのでとても参考になりました。

ジェイン・エア』の中で描かれるローウッド学院の劣悪な環境はシャーロットが当時通っていた学校がモデルになっていて、シャーロット自身も結核で姉を二人亡くしているということに驚きました。

ジェインの親友のヘレンが亡くなるという悲惨な描かれ方がとても印象的でしたが、それは学校の不衛生な現状を多くの人に知ってもらうためのシャーロットからのメッセージだったのだと思いました。

また、シャーロットが女性であることを隠して小説を書いていたことや『ブロンテ姉妹 女性作家たちの十九世紀』からの引用の次の部分を見て、執筆活動をしたくてもそれさえ許されなかったことに当時のイギリスの女性の不自由さをすごく感じました。

「女性の果たすべき義務を、すべて注意深く守るだけでなく、それらに心から興味を感じるように努力してきました。しかし、いつもうまくいくわけではありません。教えたり縫い物をしてきるとき、むしろ読んだり書いたりしたくなるときが時々あります。しかし、私は自制しようと努めます。そして父が褒めてくれれば、読んだり書いたりできなくても、十分に報われました。」

当時の理想の女性像である「家庭の天使」はかなり男性側にとって都合のいいもので、不平等な社会だったことがすごく伝わってきます。そのような時代に、ペンネームではありますが、小説を書き、小説の中で財産や身分にとらわれない社会に反抗する新しい女性像を描いたシャーロットはとても勇敢だと思いました。

私もシャーロット・ブロンテについてもっと調べてみてから、もう一度『ジェイン・エア』を読んでようと思います。