【第5期】2018年11月1日のゼミ日誌

今回の日誌当番は、村上さんです。

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今回と次回は、前期に読んだ『日の名残り』についての2回目の発表です。

今回は私、前田くん、石田さんの3人が発表しました。

まず私は、『日の名残り』の欠落している5日目についての発表をしました。3回生の前期から通してトップバッターでの発表は初めてだったので非常に緊張しました。この作品は主人公スティーブンスの旅の1日目から6日目にかけての出来事が順番に書かれていますが、唯一5日目のみが欠落しています。その理由の考察として私は

①旅の目的が叶わなかったから
②スティーブンスが「過去は取り戻せない」ことを知ったから
③作者カズオ・イシグロの狙い

という3つを挙げました。3つのうち1番考えられる理由はどれか?と、みんなが自分の考えを様々に述べてくれました。私自身は②が1番の理由だったのかもしれないと感じました。自分がいくら理想としていても実際に「これが現実だ」と突きつけられると誰でもショックを受けると思います。スティーブンスは現実を知らされてショックを受けたため、それを整理するために時間が必要だったのかもしれません。

次に前田くんが『日の名残り』における「ペルソナ」というテーマで発表をしました。

ペルソナとは、心理学において自己の外的側面を意味します。スティーブンスは偉大な執事でありたいという思いからダーリントン卿やファラディ氏、ミス・ケントンに対してもペルソナを持っており、ミス・ケントンが結婚の報告をしたときですら感情を出すこともなく淡々と対応していたスティーブンスが印象的でした。

私がなるほどと思ったのはペルソナのほころびについてです。ペルソナのほころびは自分にとって耐えられないほどのショックや、自分を否定されたときに起こる。スティーブンスでいえば父が亡くなったときに父の死から気を逸らすために国際会議での仕事に逃げて冷静を保っていた。しかし、ミス・ケントンと再会したことでスティーブンスは旅の目的や希望がなくなってしまう。これがスティーブンスにとってかなりのダメージ(=ウェイマスでのペルソナのほころび)だったのではないか?というのが前田くんの考えでした。

石田さんは『日の名残り』映像作品との比較というテーマで発表をしました。

前回と前々回の授業で鑑賞した映画版の『日の名残り』と原作の『日の名残り』を比べると、原作にあっても映画には無い場面、映画にあっても原作には無い場面が多々見られました。映画版の方のラストシーンに、屋敷に迷い込んだ鳩が空へ飛び立っていくという場面があり、最後は屋敷からどんどん遠ざかっていくカメラワークで終わります。これは原作の方には書かれていませんが、石田さんはこの場面から様々な解釈が出来ると述べていました。

飛んでいく鳩と屋敷の中にいるスティーブンスの対比、鳩が飛んでいく様子=スティーブンスの気持ちの解放の比喩、平和の象徴としての鳩、というのが石田さんの考えでした。私は映画版を見ていてこの最後の場面があまりにも妙な終わり方だったので「最後の場面はどういうことだろう?」という感想しか持てず拍子抜けしてしまったのですが、よく考えてみるとこういう解釈が出来るのかと非常に印象に残りました。

次回は羽藤さん、松浦さん、矢原さんの発表です。今回は普段と違ってあらかじめテーマを知らせずに発表をしているので、みんながどういうテーマにしているのかは当日まで分からない状態です。次回の発表もとても楽しみです。

===ここまで===

二度目の発表なので、みなさんの理解が深まっていて、発表もコメントもどちらも面白かったです。次回も楽しみですね。